HOME > 葬儀屋の霊安室へ
末期の水
もうすでに時間は夜10時近かったのだろう。
父親の遺体は葬儀屋の安置室へ入れられた。
そこで、一人ずつお線香をあげ、その後、先端に綿がついた棒の綿を湿らせて、父親の唇を濡らした。
水分を口からとることはできなかった父親の唇。 乾き切っていた。
入れ歯をはずしてあったので、唇が口の内側に落ち込んでいた。
入院してからは、口から水分を取ることは禁じられていた。お水を飲みたかっただろうに。
これが『末期の水』という儀式だということは後で知った。
葬儀屋がいなかったら、こういう葬儀の仕方など何もわからないだろう。